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東京地方裁判所 昭和56年(ワ)12321号 判決

原告 甲野太郎

右訴訟代理人弁護士 金澤均

被告 乙山春子

右訴訟代理人弁護士 眞木吉夫

主文

一  被告は原告に対し金一四七万円及びこれに対する昭和五六年一一月一〇日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は五分し、その四を原告の、その余を被告の負担とする。

四  この判決は一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の申立

一  原告

1  被告は原告に対し金七七六万円及びこれに対する昭和五六年一一月一〇日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行の宣言

二  被告

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  請求の原因(一)

(一) 原告は、第一東京弁護士会に所属する弁護士である。

(二) 原告は、訴外弁護士下山四郎(以下、下山という)と共に、昭和五二年七月ごろ、被告より、調停に付せられている次の訴訟事件の委任を受けた。

東京地方裁判所昭和五〇年(ワ)第八〇三八号 抵当権設定登記抹消及び預金債権返還請求事件

原告 訴外 志賀義明

被告 本件被告

(以下、(一)事件という)

(三) その後、原告及び訴外下山は、右(一)事件の係属中、昭和五四年六月ごろ、被告ほか四名より次の事件の委任を受けた。

同庁昭和五四年(ワ)第五八六四号 持分所有権一部移転登記手続請求事件

原告 本件被告、訴外志賀義貞、同志賀義男、同江尻ヤエ子、同志賀キミの五名

被告 訴外 志賀義明

(以下、(二)事件という)

(四) 右(一)事件及び(二)事件は、併合され、昭和五五年七月一五日、裁判上の和解により終結した。和解条項の趣旨は、次のとおりである。

(1) 被告は、訴外志賀義明のため、紛争の土地・建物に設定してある抵当権を抹消する(なお、二個の抵当権の債権額は、それぞれ金五〇万円と金二〇万円である)

(2) 訴外志賀義明は、被告らに対し、解決金として金六〇〇万円の支払義務のあることを認め、これを昭和五五年一〇月一五日限り訴外下山弁護士事務所(中央区銀座八―一二―一五)に持参又は送金して支払う

(3) 訴外志賀義明は、被告との共同名義による盤洋信用金庫泉支店に対する昭和四七年五月二五日付普通預金債権金二三五万二九三一円の訴外志賀義明の持分二分の一を被告に譲渡し、これにより右債権全額が被告に帰属したことを確認し、直ちに同信用金庫同支店に対し債権譲渡通知を行う(以下、省略)

(五) 訴外下山は、昭和五六年八月二〇日ごろ、訴外志賀義明の代理人より、右金六〇〇万円のほか、遅延損害金二五万三九七五円の送金を受けた。

(六) 原告は、(一)事件が調停手続に付されているとき、その委任を受けた際、金二五万円の着手金を受領した。

しかし、その後、(一)事件が訴訟手続に移行したときも、追加金を受領せず、また、(二)の訴訟の提起のときも、着手金を受領していない。

(七) そこで、被告が、右和解により得た利益であるが、

(一) 事件につき

右和解条項(3)項に定める盤洋信用金庫泉支店の普通預金債権金三〇〇万円(元本金二三五万二九三一円に利息を加えたもの)を確保したこと、

(二) 事件につき

右和解条項(2)項に定める金一二〇万円(同項の解決金六〇〇万円の五分の一)の債権を得たこと、

である。

(八) なお原告は、前項において、被告が(一)事件について訴外志賀義明より得た利益は、被告の訴外盤洋信用金庫泉支店に対する普通預金債権金三〇〇万円であると主張するが、その根拠は次のとおりである。

訴外志賀義明は、昭和四六年一〇月から昭和四七年四月にかけて、その所有にかかるいわき市泉町玉露字吉野二六番土地(地目は田、六四三・六七平方メートル―一九五坪)を坪当り一三、〇〇〇円で訴外渡辺歌子及び同佐々木藤蔵に売却した際、訴外志賀義明において、右売却代金の浪費を防ぐため、被告の申出により、右売買代金の手取額を被告と訴外志賀義明の共同名義の預金としたものであって、形式は、共同名義であるが、実質は、すべて訴外志賀義明の預金債権である。

したがって、この預金債権がすべて被告に帰属するということは、被告が、右預金債権全額について経済上の利益を得たこととなる。

(九) 原告は、少くとも、裁判所に二四回以上出頭し、事件の困難さ、着手金未受領のまま訴訟を追行した危険負担等、種々の事情を考慮し、弁護士会の報酬規則によるとき、原告は被告に対し、

(一) 事件につき

右金三〇〇万円に対する報酬は、金四三万五五〇〇円の二分の一に相当する

金二一万七七五〇円

(二) 事件につき

右金一二〇万円に対する着手金二〇万一五〇〇円及び報酬金二〇万一五〇〇円この合計金四〇万三〇〇〇円の二分の一に相当する

金二〇万一五〇〇円

右総合計金四一万九二五〇円の請求権を有する。

2  請求原因(二)

(一) 被告は、訴外木藤穰より、東京地方裁判所昭和四二年(ワ)第六二一八号土地所有権移転登記抹消登記手続等請求事件を以て、次の訴を提起された。

東京都港区高輪二丁目(旧表示 同区芝車町)二一番一、宅地二九四・三八平方米につき、

(1) 債権額金一五〇万円の抵当権設定登記

(2) 代物弁済予約による所有権移転請求権仮登記

(3) 所有権移転登記

の各登記の抹消をすること

訴外下山は、被告より、右事件の委任をうけてこれを争ったが、同庁は、昭和五三年六月二九日、右訴外木藤穰の主張を全面的に認め、被告敗訴の判決を言渡した。

(二) 被告は、直ちに、右第一審判決に控訴し、右事件は、東京高等裁判所昭和五三年(ネ)第一七八一号控訴事件(以下、控訴事件という)として、同庁第一民事部に係属した。

(三) 原告は、昭和五三年一一月頃、被告より、右控訴事件の委任を受けた(訴外下山は、これより少し前に委任を受けていた)。

したがって、原告は、右控訴事件につき、次のとおり相当額の金銭請求権を有する。

(1) 着手金

右宅地の時価は、一平方米当り六九万円を下ることはないから、右宅地二九四・三八平方米の時価は、二億円を下らない。

そして、事件の複雑さ、訴訟記録の膨大さ、その他の事情を考慮するとき、右控訴事件の着手金は、弁護士会の報酬規定により金七八四万五〇〇〇円が相当であるところ、更らに、担当弁護士が二名であることを考慮し、これを二分すると、原告に帰属する部分は金三九二万二五〇〇円である。

しかるに、原告は、右控訴事件について、被告より今迄に受領した金額は金三五万円と金一五万円、この合計金五〇万円である。

したがって、原告の被告に対する未受領着手金は金三四二万二五〇〇円である。

(2) 報酬相当額の損害金

また、被告は、昭和五六年一〇月八日、東京高等裁判所第一民事部へ右控訴事件につき、原告を解任する旨の文書を提出した。

右控訴事件は、すでに、主張・立証を終了し、終結前の和解を経て、弁論に復帰し、訴訟手続は終結直前であった。

ところで、原告は、被告から何らの理由もなく右控訴事件の訴訟委任を不利な時期に解任されたのであるから、原告は、右控訴事件を成功とみなし、損害賠償として、被告に対し、報酬に相当する額として金三九二万二五〇〇円を請求する権利を有する。

このようにして、原告の被告に対する右控訴事件に関する請求額は、(1)の未受領着手金及び(2)の報酬に相当する額の合計金七三四万五〇〇〇円となる。

3  請求原因(一)及び(二)の合計額

したがって、原告は、被告に対し、請求原因(一)の金四一万九二五〇円、及び請求原因(二)の金七三四万五〇〇〇円、この合計七七六万円(端数は切捨てる)並びにこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和五六年一一月一〇日から支払済みに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求の原因に対する答弁

1  請求の原因(一)について

(一) (一)項は認める。

(二) (二)項は否認する。

被告は原告に(一)事件を委任したことはない。被告は訴外下山に右事件を委任していたところ、下山は原告に右事件の手伝いをさせることにしたに過ぎない。

(三) (三)項は否認する。右(二)と同様、被告は下山に委任し、下山が原告に手伝いを頼んだに過ぎない。

(四) (四)項は認める。

(五) (五)項は認める。但し、訴外志賀義明が和解成立後一年余経過するも下山が何等の措置もしないため、被告自ら不動産競売の申立をしたことにより始めて志賀の代理人より下山に送金があったものである。

(六) (六)項は認める。但し、原告に二五万円を支払ったのは下山であり、被告は着手金として五〇万円を二回に分けて下山に支払い、下山の判断で半分を原告に支払ったものである。(二)の事件について下山に委任したのであるから被告は原告に着手金を支払っていないのは当然である。

(七) (七)項中、(一)事件につき志賀と被告の共同預金を被告全所有にしたことは認める。(二)事件については認める。

(八) (八)項は、明らかに争わない。

(九) (九)項は否認する。

2  請求の原因(二)について

(一) (一)項は認める。但し、一部勝訴部分があり全部敗訴ではない。

(二) (二)項は認める。

(三) (三)項は否認する。この事件も被告は下山を委任したところ、下山が原告に手伝いを頼んだものである。同項の(2)について、被告が原告を解任したことは認めるが、解任の事由は、下山と被告との間で報酬についての話合い最中、原告から債権仮差押(東京地方裁判所昭和五六年(ヨ)第六八七九号)を受けたため、信頼出来なくなったからである。

控訴事件では、被告は控訴棄却、上告棄却の判決を受け完全敗訴しており、被告の得た利益は何もない。従って謝金を支払う必要がない。

3  3項は争う。

第三《証拠関係省略》

理由

第一請求の原因(一)について

一  請求の原因(一)項は当事者間に争いがない。

《証拠省略》によれば次の事実が認められ(る。)《証拠判断省略》

1  原告は昭和三七年四月弁護士となり、下山弁護士事務所に入り、約四年後独立し、昭和三七年から昭和五〇年七月までフランスに留学した。

同年七月原告が帰国後、下山との話合により、原告は下山の事件の手伝いをするが、独立して仕事をすることとなり、依頼者との間では下山と共同代理の形で弁護士事務を行ってきた。

2  昭和五二年七月頃原告は下山より、この時既に調停に付せられていた(一)事件につき、被告の夫である訴外乙山春夫を下山事務所において紹介を受け、下山と共に訴訟委任を受けることとなり、同年八月二〇日付の被告の下山及び原告に対する訴訟委任状の作成交付を受け、東京地方裁判所に提出し、爾来、下山と原告が(一)事件の事件につき調停期日に出頭し、昭和五三年二月二一日調停不成立となった後、本訴に移行した右事件も担当してきた。

3  昭和五四年六月頃、(一)事件の攻撃防禦の必要上、(二)事件を提起することとなり、被告より下山及び原告が同年六月一五日付で訴訟委任状の作成交付をうけ、これを同裁判所に提出し、右事件を提起した。右事件は(一)の事件に併合して審理され、下山及び原告は(一)、(二)事件を担当してきた。

右認定事実によれば、原告は下山と共同して被告より(一)事件及び(二)事件の訴訟委任を受けたことが明らかである。

ところで、数人の弁護士が共同訴訟代理人になった場合は各代理人が委任者である当事者に対し、それぞれ受任事件の処理につき業務上の注意義務を負うとともに直接報酬請求権を有し、その性質上連帯債権者の地位に立つものと解するを相当とする。「事件を手伝う」ということは共同訴訟代理人間の内部関係に過ぎないというべきである。従って、原告と下山は連帯して委任者である被告に対し報酬請求権を有するものと認められる。

二  請求の原因(四)ないし(六)項は、当事者間に争いがない。同(七)項中、(一)事件につき志賀義明と被告の共同預金を被告全所有にしたこと、(二)事件については、当事者間に争いがなく、同(八)項は被告において明らかに争わないから自白したものとみなすべきである。

《証拠省略》によれば、次の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

1  昭和五二年七月頃(一)事件につき下山と原告が訴訟委任を受けた際、被告との間で着手金を五〇万円とする旨約束し、これを分割で支払いを受けたものであるが、昭和五四年六月頃(二)事件の訴訟委任を受けたときは下山は(二)事件は(一)事件の攻撃防禦の一方法であるとして被告より新たに着手金をもらわないこととした。

原告は(二)の事件についての下山の右の取り扱いに何ら異をとなえることなく受任し、下山と共同で事件を担当してきた。下山は昭和五五年七月二四日被告から前記五〇万円の着手金の残額を受領した際、「これは志賀事件の着手金残額で、着手金はこれで済み。」として受領した。

2  しかし、下山及び原告は、被告との間で1で認定した以外の報酬(成功報酬)についての約束をしていない。

右認定事実によれば当事者の意思は、(二)の事件は(一)の事件に関連し併合審理さるべき事件であったので、下山及び原告はこの事件についての着手金をあらためて請求することはなく、(一)事件の着手金でまかなう趣旨であり、これ以外の報酬はすべて(一)(二)事件について依頼の目的が達せられたとき成功報酬として支払われることにしたものと解すべきである。してみると、原告の(二)事件についての着手金の支払いを求める部分は理由がないというべきであるが、(一)、(二)事件について成功報酬を求める部分については理由があることになる。

なお、被告は、(二)事件について六〇〇万円を志賀義明の代理人より支払いをうけたのは被告自身が不動産競売の申立をしたことによるものであると主張しているが、前記のとおり(一)(二)事件について和解成立にいたるまで訴訟の追行をなしてきたのが、下山及び原告であるから、たとえ、被告の不動産競売申立が右履行につき何らかの影響があったとしても、被告は下山及び原告に対し成功報酬の支払いを免れるものではないというべきである。

かように、弁護士に対する成功報酬の額につき依頼者との間に別段の合意が存しない場合には、勝訴により依頼者の受ける利益、事件の難易、労力の程度、手数料(着手金)の額、所属弁護士会の報酬規定その他諸般の事情を勘案して当事者の意思を推定し、もって相当報酬額を算定すべきである。

前記当事者間に争いのない事実及び自白したものとみなされた事実によれば、被告が(一)事件について得た利益は三〇〇万円、(二)事件について得た利益は一二〇万円と認めるのが相当である。

《証拠省略》によれば、第一東京弁護士会報酬規則一八条は別紙のとおり手数料及び謝金を算定することにしており、右得たる利益三〇〇万円についての一八条一項の額は三三万五〇〇〇円であり、得たる利益一二〇万円についての一八条一項の額は一五万五〇〇〇円であることが認められる。

これらの事実及び(一)事件を受任して約三年後、(二)事件を受任して約一年後にいたり、和解が成立したこと、前記手数料の額等諸般の事情を併わせ考えるとき、被告が(一)事件につき原告に支払うべき成功報酬は一六万七五〇〇円(前記標準額につき原告と下山が担当したことによる二分の一)、(二)事件につき原告に支払うべき成功報酬は七万七五〇〇円(右に同じ)、合計二四万円(一万円未満切捨)が相当である(原告の主張する一八条二項の増額する事由は認められない。)。

第二請求原因(二)について

一  請求の原因(一)項は当事者間に争いがない。

なお、《証拠省略》によれば、原告主張の昭和四二年(ワ)第六二一八号土地所有権移転登記抹消登記手続請求事件(甲事件)に本件被告が原告となり木藤穣が被告となった同年(ワ)第一三六九七号建物所有権移転登記手続請求事件(乙事件)、木藤穰及び木藤陽子が原告となり本件被告が被告となった昭和四三年(ワ)第八〇九九号損害賠償請求事件(丙事件)が併合されていたこと、一審判決では甲事件について本件被告が敗訴であったが、乙事件について本件被告が一部勝訴、丙事件について本件被告が勝訴であったことが認められる。

二  請求の原因(二)項は当事者間に争いがない。なお、《証拠省略》によれば、原告主張の昭和五三年(ネ)第一七八一号控訴事件に同年(ネ)第一八五九号控訴事件が併合されたことが認められる。

《証拠省略》によれば次の事実が認められ(る。)《証拠判断省略》

下山は、一項認定の各事件について一審の訴訟代理人をつとめ、前記の控訴事件についても受任していたところ、昭和五三年一〇月頃原告は下山より右控訴事件について被告及び乙山春夫の代理人となって手伝ってほしい旨述べられ、同月二五日付の被告及び乙山春夫の右控訴事件についての原告に対する訴訟委任状の作成交付を受け、東京高等裁判所に提出し、爾来、下山と共に右控訴事件を担当してきた。

右認定事実によれば、原告と下山は共同して被告より控訴事件の訴訟委任を受けたことは明らかであり、第一の一項で説示したとおり原告と下山は連帯して委任者である被告に対し報酬請求権を有するものと認められる。

三  《証拠省略》によれば、次の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

1  原告は控訴事件を被告から受任するにあたり被告との間で当初着手金を三五万円と定め、昭和五三年一二月二〇日右の内金二〇万円、昭和五四年二月一〇日残金一五万円を乙山春夫より受領したが、控訴事件が複雑な事件であることが判ったので、原告は追加の着手金として一五万円を要求し、同年四月一七日乙山春夫より右一五万円を受領し、その後昭和五六年一〇月頃まで下山と共に右控訴事件を担当してきた。

2  原告と被告又は乙山春夫の間には1で認定した以外に報酬(成功報酬)についての約束をしたことはない。

右認定事実によれば、当事者の意思は、控訴事件の着手金は原告が既に受領した五〇万円に限り、これ以外の報酬はすべて依頼の目的が達せられたとき成功報酬として支払われることにしたものと解すべきである。してみると、原告の控訴事件についての着手金の支払いを求める部分は理由がないというべきである。

四  被告が昭和五六年一〇月八日控訴事件につき原告を解任したことは当事者間に争いがない。解任の事由につき、被告は、原告より債権仮差押を受けたためであるというが、第一で認定したとおり、原告は(一)(二)の事件につき報酬請求権を有しているのであるから、この権利の行使の手段として債権仮差押をすることは何ら非難に価する行為とはいえず、かえってこれについて話合いをなさず、突然控訴事件の訴訟委任を解任することこそ許さるべきではないといわなければならない。

五  被告のなした解任行為は、原告の委任契約から受けるべき成功報酬につき、「故意ニ其条件ノ成就ヲ妨ケタルトキ」に該当し、民法一三〇条により成功とみなされるものといわなければならず、原告に対し報酬相当の損害金を支払う義務があることになる。

そして、その額については、前記認定のとおり本件委任事件につきあらかじめ成功報酬金額について合意が成立していなかったのであるから、勝訴によって依頼者の受ける利益、事件の難易、労力の程度、手数料(着手金)の額、依頼者との関係、所属弁護士会の報酬規定その他諸般の事情を勘案して当事者の意思を推定し、もって相当報酬額を算定すべきである。

《証拠省略》によれば次の事実が認められる。

1  控訴事件の主なる対象目的物は、東京都港区高輪二丁目二一番一宅地二九四・三八平方メートルで、右土地の所有権の帰属が争点となっていたところ、被告が本件訴訟委任を解任した時点である昭和五六年度の固定資産課税台帳に登録されている右土地の価格は八二、四二六、四〇〇円であった。

2  第一東京弁護士会報酬規則一八条一項による右八二四二万円についての標準成功報酬額は四一三万一八〇〇円となっている。

3  昭和五七年二月一〇日東京高等裁判所は控訴事件につき控訴棄却の判決をなし、昭和五九年三月三〇日最高裁判所は上告棄却の判決をなした。

右認定に反し原告は本件対象物件の価額は一平方メートル当り六九万円である旨供述するが、採用できない。

右認定の事実に原告が控訴事件を受任して約三年間訴訟活動を行ったこと、相当複雑な事件であったこと、原告が既に受領した着手金の額等諸般の事情を併わせ考えるとき、被告が解任により原告に支払うべき報酬相当額は一二三万円をもって相当と認められる(前記標準額四一三万一八〇〇円につき原告と下山が担当したことによる二分の一である二〇六万五九〇〇円とし、これに対しさらに上記の事情により六〇パーセントを相当と認めた。なお一万円未満切捨)

第三結論

よって、原告の本訴請求のうち、請求の原因(一)につき金二四万円、請求の原因(二)につき金一二三万円、合計金一四七万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかである昭和五六年一一月一〇日から支払済みに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で正当として認容し、その余は失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 荒井眞治)

〈以下省略〉

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